2014年6月7日土曜日

第1回漫画合宿

  


「リゾートホテルに、一緒に泊まりに行かない?」
唐突にそうおっしゃったのは、Sugi様。
そう言われて、一瞬きょとんとしたのは、私 Neki。
その一言が、すべてのはじまりだったと、今、あらためて感慨深く思う。
2012年の、沖縄の短い秋も終わろうとしていた頃のことだった。
  
何かをこじらせ突発的に格安宿泊権を入手してしまったSugi様が、それを無駄にしないため、仕事の関係で週に1度程度顔を合わせるNekiを誘ったのには、この時点ではあまり深い考えなしにだったのではないかと思う。宿泊するホテルがやんばるであることや、ディナーが付いていることなどを説明している間に、ふとNekiも自分と同じくマンガ好きだということを思い出したようで、Sugi様は続けてこう提案をした。
「そうねぇ、それぞれオススメのマンガを持ち寄って夜通し読む、っていうのはどうかしら?」
「ほほう。それは楽しそうですねぇ」
仕事を必要以上にがんばっちゃう女二人が、別のチャンネルで同志となった瞬間だった。
 



 
 そして、その日はやってきた。2013年1月某日、記念すべきマンガ合宿の第1回は、この二人によって、ひっそりと開催されたのである。
 Sugi様のオフィスまで迎えにいったNekiは、用意されていたスーツケースの大きさに苦笑した。海外に1週間は滞在できる大きさのそれを、Nekiは嗤うことはできない。Nekiだって、機内持ち込み可能なサイズを少し超えるスーツケースと、かなり大振りなトートバックをすでに車に積み込んでいた。座席を倒した軽自動車の後ろ半分が、二人の荷物で埋め尽くされた。1泊分の着替えと女の必需品以外の持ち物は、言うまでもなく全てマンガである。
 一晩で読める冊数ではないことは、お互い重々承知しての所行だった。その量によって満たされる心を、二人は感じていた。
 
 残念ながら、スケジュールを死守しきれなかったため、二人の出発は予定より30分遅れた。さらには、高速道路に入るまでの道が普段よりもひどい渋滞であったため、名護に着いたときには、ディナーの最終受付時間まで1時間強しかなかった。休憩も兼ね、大急ぎで夜用のドリンクやおやつなどを調達した後、マンガを満載したNekiの軽自動車は宿泊地である、国頭村安田を目指した。
 日もとっぷり暮れた、灯りの少ないやんばる路では危険なスピードを、多少ならず出した甲斐あって、ディナーの締切である20時の3分前にかろうじて宿泊地に到着できた。ありついたコースディナーは、要所要所で沖縄の食材が活かされていて、とても美味だった。Nekiは、仕事の関係でその存在を知ったばかりの「沖縄ミーバイ」が、実際に食べられたことにも満足した。
 
 腹も満ち、いよいよ合宿本編である。いかにもリゾートな部屋に備え付けのライティングデスクに、二人は持ち込んだマンガの全てを並べた。ライティングデスクからはみ出さんばかりの量に、並べ終えるころには、笑いが止まらなくなっていた。ずらりと並んだその様子を、思わず何度も角度を変えて写真に撮った。
「これは、アホですねぇ……わはははは」
「そうねぇ、バカみたいな光景よねぇ……うふふふふ」
 奇妙なテンションになっていた二人だった。
  





 そのまま持ってきたマンガを紹介しあっていたら、日付も変わろうという時間になった。風呂に交代で入り、その後マンガを読みふけった。風呂を出たころから、会話はほとんどなかった。ただひたすらページをめくる音だけが、やんばるの森に囲まれた静かで閑静なリゾートホテルの一室に響いていた。
 

 
 ホテルのスタッフから「ヤンバルクイナは早朝が一番活発なんですよ」と聞いていたが、当然のことながら、そんな時間に起きられるはずもなかった。二人が睡魔に屈服したのは、午前3時ごろだったからだ。時間的には充分な睡眠が摂れていないはずだが、頭と、何より心はすっきりしていた。しかしディナー同様、朝食もぎりぎり、チェックアウトもぎりぎりの時間になったが。
 チェックアウトの時、フロントのスタッフからもうひとつ情報を得ることができた。近くに灯台があるという。
「灯台?」
「ん? ………!」
「「………とうだい!!!」」
 二人の頭に蘇ったのは、同じシーンだった。
  
 教えられたおおよその場所と、GPSを頼りにたどりついたそこにあったのは、小振りだが確かに灯台だった。晴れ渡った空に白く伸びるその様に、あのマンガの6巻冒頭で描かれる夏を思い出す。そして、二人はそれぞれ、黒い学生服に身を包んだあのアンドロイドのように、その建物の入口の手前に設置された門扉に縋りつくポーズで記念撮影をした。もちろん例のセリフをお互い唱えながらだ。
「やっぱりとうだいは、狭き門なのですね。」
 二人はたいそう満足した。
「実は私、髪の分け目も一緒なの」
 Sugi様は撮った写真をfacebookにアップしながら、優雅な微笑みを添えて控えめに自慢をした。
  
とうだいに入れずうなだれるSugi様。指が写ってしまいスミマセン…。

同じく、とうだいに入れずうなだれるNeki。

      
 せっかくだからと、帰路は少し遠回りをした。奥集落を通り、辺戸岬の脇をかすめ、道の駅ゆいゆい国頭でお土産を買った。昨夜は夜の闇に融けていたやんばるの森と海の景色も、ぞんぶんに堪能した。
 休憩に立ち寄った恩納村のリゾートホテルのラウンジでは、コーヒーを飲みながら沈みゆく夕陽をゆったりながめた。冬の海に沈む夕陽は、水温が高く水蒸気でぼやける夏の夕陽よりも比較的くっきりと見えた。
「また……やりましょうね、合宿」
「そうですね。絶対。必ず」
「他にもいるかしら。こんな贅沢な時間を一緒に楽しめる人」
「きっといますよ。うん、きっと」
 このとき二人は、少なくともNekiは、全く想像もしていなかった。第2回で同志を得、第3回にはこのようなブログを立ち上げてしまうような形になることを。
  
 中部まで戻るころには夕食の時間もとうに過ぎていたというのに、第1回合宿の締めにと、泡瀬のマンガ倉庫に立ち寄った。この充実した時間を終え難く感じたせいでもあった。
 二人ともそこでさらに荷物を増やしたが、もちろん後悔はなかった。
  
  
第1回マンガ合宿報告
文責:Neki

1 件のコメント:

  1. ■追記■

    「なんだか旅に出たかったんですよね」

    リゾートホテルのチケットを取ったとき、ワタクシはなんだか旅に出たい気分だったのです。

    といっても、今抱えている仕事を放り出して出奔するわけにもいかず・・・

    ドライブだけで満たされる訳でもなく・・・

    そうだ・・・北、北に行こう

    北といっても沖縄本島内ではたかが知れています。

    でも、気分転換くらいにはなるよね・・・

    そんな安易な気持ちが、まさかの展開になろうとは、その時誰が予想したでしょうか?

    Nekiさまと暗い山道を飛ばし

    ホテルのレストラン閉店時間ぎりぎりに滑り込んでいただいたディナーはどれもこれも美味しかった・・・

    もう食べられないというお腹を抱えて読みふける漫画・・・

    大好きな作品のワンシーンを体現する幸せ

    そしてたまに我に返り「あ、これ今抱えてる案件だ。写真撮っとこ」なんて瞬間もまたよし。

    ハイテンションで投稿した写真に、思いのほか食いついてくる人々。

    今思えば、あの日が妄想へのプレリュードだったのでございますね・・・ふふふ・・・

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